日本文学の包括的な情報を提供する辞典。
- 編集者: 伊藤整, 川端康成, 椎名麟三, 山本健吉, 吉田精一他
序
最近における日本文学は、時代の流れ、世界の動きを反映して目まぐるしい変化を見せながら、出版ジャーナリズムの発展と相俟って、千五百年にわたるその歴史の中でも比類のない隆盛を示しています。
ここに小社は、新しい時代の動きに注目して全く新しい文学辞典の出版を決意し、創立七十周年記念出版の一つとして、また一昨年刊行された『世界文学小辞典』の姉妹編として『日本文学小辞典』の編集に着手しました。
本辞典の第一の特色は、今日の見地から総覧して古典から現代に至る日本文学のすべてを1冊に集約した点にあります。記紀万葉の古代から江戸時代に至る古典の大家、名作を帰れなく収録し、明治以後、現代の作家とその作品には特に多くの紙数を費やしました。作家、作品の項目の他に各時代別文学史および諸流派、様式や、これらの事項項目によっても把握できない「古典と近代文学」「ジャーナリズム」「外国の日本文学研究」「翻訳文学」「好色本」など他に類を見ない独自の項目を設け、有機的な検索に耐えうる内容を盛り込みました。特色の第二は、従来の難解な辞典的記述、資料的内容の羅列を避け、作家の鼓動と作品の息吹きを生き生きと伝えることに最大の努力が払われた点にあります。この方針にそって考えうる最適の執筆者が選ばれ、学界ばかりではなく、第一線の作家、評論家の積極的な参加を得てその数は六百人にも達しました。原稿は専門委員によるデータその他の点検を経て、編集委員による閲読校訂が行なわれました。
第三は、一冊の資料事典にも相当する内容を盛り込んだ各種索引にあります。生没年を付記した人名素引、発表、刊行などのデータを付記した作品索引、創・終刊などのデータを付記した新聞・雑誌索引などが収められ、詳細なデータを本文から素引に移すことによって、本文は一層読みやすくなり、一方、データのみを調べる場合には容易に検索できるように配慮しました。
本辞典は以上のような特色と内容を持って完成を見るに至りましたが、企画当初よりの目標である「調べるだけの辞典ではなく、親しみを持って読むに耐える辞典」として自をもって世に出すことができますのは、ひとえに編集委員、専門委員をはじめ関係各位の筆舌に尽くせぬご努力のたまものであります。