─スポーツとして広がる吹矢 呼吸法に健康効果─遊びだから手軽。なのに脳も若返ってボケない!吹矢がじわりと競技人口を増やしている。「えっ、吹矢って競技なの?」という向きもあるかもしれないが、とりわけシニア世代から熱いまなざしを受けている。競技人口はすでに6万人以上という。吹矢の魅力はどこにあるのだろう。武器から誰でも楽しめるスポーツへ古来より吹矢は狩猟具として世界各地で利用されてきた。時代劇で忍者が使う武器、というイメージも強い。それがいま、危険性のない矢を使った娯楽やスポーツとして広まっている。吹矢普及の立役者となったのは、皮膚科医でもある著者。ふとしたことから吹矢の魅力に気づき研究するうちに「これはスポーツになるのではないか」と思うようになったという。フランスを筆頭に海外でも吹矢が広まりつつある。めざすのは世界中の人を熱中させるスポーツ健康法としての地位確立だ。著者が会長を務める国際吹矢道協会は、スポーツ吹矢の国際的ルールを確立し、オリンピック種目になれるよう努めているという。吹矢が広まる背景について著者は次のように述べる。「いま高齢化社会を迎えて、中高年齢層の人たちを健康に保つにはまず体を動かすことが大切だと言われております。強制されて動かすのではなく、自分からやりたくなるような運動で面白さがなければ長続きしません」継続のハードルが低い吹矢2021年度のスポーツ庁の調査によると、日常生活で週1回以上の運動習慣のある人は5割、週3回以上になると3割ほどに減る。運動を継続するのが難しいのは、仕事や家事などの忙しさが原因だ。だが、本質的には環境を整えることの難しさにあるようだ。どんなことも最初の1回あるいは数回はモチベーションを保てる。ところが道具、ハードなトレーニング、専用施設でのプレイが求められると、とたんに継続しにくくなる。一方、吹矢は自分で作ったもので構わない。難しい動作がなく、体力や年齢や性別に関係なく、障がいのある人も始められる。サッカーや野球などのメジャーなスポーツと比べてルールも簡単だ。現代人は慢性的な酸素不足面白いと感じられなければ継続は難しい。しかし、面白さはやってみなければわからない。始めるきっかけとして大事なのは、「効果」への期待ではないだろうか。吹矢のメリットは簡単に呼吸法のトレーニングができることだ。呼吸など誰もがしている。さしてメリットにならないと考える人もいるかもしれない。ところが、現代人は慢性的な酸素不足に陥っている、という説があるらしい。昔の人は腹筋を使ってよく歩き、よく走り、よく動き回った。それに比べて現代人は動くことが少ない。腹や腰に力を入れる必要性が減り、浅く落ち着きのない呼吸をしている。身体に行き渡る酸素が欠乏し、ホルモンや酵素などが体内で正常につくられなくなっている。その結果、消化機能や内蔵機能、神経機能のバランスが崩れるという悪循環になっているというのだ。その点、吹矢は腹式呼吸がマストだ。矢を正確に飛ばすには腹式呼吸で息を一気に吐き出さなければならない。胸式呼吸より酸素を多く摂取できるので、全身を活性化し、脳を若返らせることもできるという。横隔膜筋肉や腹筋も鍛えられるので、腰痛の改善や予防、便秘の解消にもなる。的を狙う際に自然と気持ちを落ち着かせて「集中する」ことも、吹矢のポイントだ。余計なことを考えず集中する時間を持つと、精神が安定し、イライラ感や不安感の解消につながる。さらに高血圧の改善も期待できるという。ゲームとスポーツのいいとこどり吹矢は誰でも楽しめる。しかし、「簡単そうで奥深い」のも吹矢の魅力だ。研究と訓練ではてしなく上達することもできる。吹矢は誰もが「ゲームとしての『面白さ』とスポーツとしての『達成感』」と、健康効果を得られるスポーツといえるだろう。スポーツ吹矢の意義について、著者は次のように述べる。「人はパンだけあれば幸せだとは考えられません。人は遊ぶ動物です。人は何か心を打ち込める遊びがないとすぐボケてしまいます。吹矢道はそのような迷える人たちに、活力と生きる喜びを与えるのに最適な遊びのスポーツです」そこで吹矢を始める人に詳しい方法を紹介するのが本書だ。構え方や的の狙い方、息の出し方について多くのページを割いている。矢や矢形、的のつくり方も図解されているのでイメージしやすい。上達をめざす人は、矢が当たらない理由とアドバイスを読んでみよう。面白さは、やってみればわかる。まずは、軽い気持ちで始めてみよう。文・筒井永英[著者プロフィール]樋口 裕乗(ひぐち ひろのり)